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WIPO 仲裁調停センター

紛争処理パネル裁定

Patek Philippe S.A. 対 Teiichiro Tachibana

事件番号 D2008-1235

1. 紛争当事者

1.1本件の申立人はPatek Philippe(Palns les Ouates、スイス)である。

1.2本件の被申立人はTeiichiro Tachibana(東京、日本)である。

2. ドメイン名および登録機関

紛争の対象であるドメイン名:<patekphilippe.org>

本件ドメイン名の登録機関:GMO Internet, Inc. dba Discount-Domain/com and Onamae.com

3. 手続の経過

本件申立書は、2008年8月13日にWIPO仲裁調停センター(以下、「センター」)へ提出された。センターは2008年8月14日にメールにより本件ドメイン名の登録確認を登録機関GMO Internet, Inc. dba Discount-Domain/com and Onamae.comに要請した。2008年8月18日にGMO Internet, Inc. dba Discount-Domain/com and Onamae.comはメールによりセンターへ登録確認の返答をし、被申立人がドメイン名登録者であることを確認し、その連絡先細目を通知した。センターは申立書が統一ドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」)、統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下、「手続規則」)およびWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則(以下、「補則」)における方式要件を充足していることを確認した。

手続規則第2条(a)項および第4条(a)項に従い、センターは本件申立書を被申立人に通知し、2008年8月21日に紛争処理手続が開始された。手続規則第5条(a)項に従い、答弁書の提出期限は2008年9月10日であった。被申立人は答弁書を提出しなかった。したがって、センターは被申立人の義務の不履行を2008年9月15日に通知した。

センターは、Haig Oghigianを単独のパネリストとして本件について2008年9月29日に指名した。紛争処理パネルは、同パネルが正当に構成されたことを確認した。手続規則第7条の要請に従い、紛争処理パネルはセンターへ承諾書および公平と独立に関する宣言を提出した。

4. 背景となる事実

被申立人より答弁書、あるいはその他による提出がない為、以下の情報は、申立書の事実として主張される。

4.1 商標名PATEK PHILIPPEは申立人に帰属し、1972年に申立人により国際的に登録された。

4.2 申立人は、当該商標を商標登録する以前から使用している。商標PATEK PHILIPPEは、下記の4つの商品・サービスクラスと関連している。

クラス9: 時間測定用のすべての機器および物品

クラス14: 時間測定用のすべての機器及び物品、時計、宝石

クラス16: ペン、事務用品

クラス34: タバコ、喫煙者の物品、マッチ

5. 手続の言語

手続規則第11条(a)項は、ドメイン名登録合意書に他の規定および当事者により他の同意がなされていない限り、手続の言語をドメイン名の登録合意書の言語とすると規定している。本件の登録契約の言語は日本語であることから、本手続は日本語により行われる。

6. 当事者の主張

A. 申立人

6.1 申立人は、ドメイン名<patekphilippe.org>が被申立人から申立人へ移転することを要請する。

6.2 申立人は、処理方針の第4条(a)項に規定されている各項目が満たされていることを主張する。

6.3 処理方針の第4条(a)項(i)の項目に関して、申立人は、紛争中のドメイン名が、申立人が所有する商標名PATEK PHILIPPEの全てを含んでいることを主張する。

6.4 処理方針の第4条(a)項(ii)に関して、申立人は、被申立人の名称が申立人または時計業と何ら関係もなく、英語および日本語によりインターネット上で入手できる情報の中から、日本における「Patek Philippe」の使用を合法化するようなものは何も見つからなかった旨を強く主張する。被申立人は、日本において、商標PATEK PHILIPPEを登録していないが、Patek Philippe S.A.は同商標を登録している。さらに、被申立人は、当該ドメイン名を使用していないことから、当該ドメイン名を必要としていない。また、被申立人は、申立人から当該ドメイン名の使用を許可されておらず、合法ではない。

6.5 処理方針の第4条(a)項(iii)に関して、申立人は、インターネット上での簡易検索により、被申立人は「Patek Philippe」が既に申立人により使用されているとの情報を知り得たと強く主張する。さらに、被申立人は、申立人が商標PATEK PHILIPPEを登録してから28年後の2000年にドメイン名<patekphilippe.org>を登録している。申立人は、被申立人が商標PATEK PHILIPPEをインターネット上で使用することにより、申立人のウェブサイトへのアクセス量および奪われたユーザーから見込まれる販売が減少していると主張する。また、被申立人は、Patek Philippeのアイデンティティーおよび彼らが提供する商品・サービスに関して、顧客に混同を生じ、そのイメージを傷つけている。さらに、申立人から送付された書簡について、被申立人はなんらの返答もしなかった。従って申立人は、申立人の権利侵害、申立人による連絡への回答拒否、および申立人の事業に生じた損害を考慮して、当該ドメイン名は、悪意により使用されていると主張する。

B. 被申立人

被申立人は、答弁書を提出せず、本件に関して一切応答しなかった。

7. 審理および事実認定

処理方針の第4条(a)項に従い、申立人は、以下に挙げる各3項目の全てが存在することを証明しなければならない。

(1) 被申立人のドメイン名が、申立人が権利を有する商標また役務商標(サービスマーク)と、同一または混同させるような類似性を有し; かつ、

(2) 被申立人は、当該ドメイン名に関して、権利または正当な利益を有さず;

かつ、

(3) 当該ドメイン名は、悪意で登録及び使用されている。

A. 同一性または混同させるような類似性

被申立人は、ドメイン名<patekphilippe.org>を登録した。当該ドメイン名は、申立人の商標であるPATEK PHILIPPEと同一であり、また、PATEK PHILIPPEをそのまま包含するものである。従って、パネリストは、係争中のドメイン名が商標と混同させるような類似性を有しており、申立人は処理方針の第4条(a)項(i)の要件を充足した。

B. 権利および正当な利益

申立人は、被申立人が紛争中のドメイン名について権利または正当な利益を有していないことを一応立証しなければならないと一般的に理解されている。しかしながら、そのような情報は、主に被申立人が持ちうる知識であり、一旦そのような主張が一応立証されると、被申立人が権利または正当な利益について立証する義務を負うことになる。(Croatia Airlines d.d. v. WACHEM d.o.o., WIPO Case No. D2004-0110 参照)

本件において、紛争処理パネルは、申立人は、被申立人が当該ドメイン名について権利または正当な利益を有していないとする主張を一応立証したものと認定する。より具体的には、被申立人は、申立人と何ら関連しておらず、また、申立人の商標を使用する、若しくは当該商標を含むドメイン名の登録を行う許可を得ているものではない。従って、紛争中のドメイン名の権利及び正当な利益を有することを証明することは、被申立人の義務である。

処理方針の第4条(c)項に、以下の項目を含む、被申立人により提出されうる権利および正当な利益を証明するような状況証拠のリストが提示されている。

(i) 善意による商品もしくは役務(サービス)の提供を行うために、当該ドメイン名もしくはこれに対応する名称を使用していた、または、使用のための明白な準備をしていた

(ii) 被申立人(個人、企業およびその他の組織)は、商標権およびサービスマークを有していなくても、ドメイン名の名称で一般に知られていた

(iii) 被申立人は、当該ドメイン名を、正当にして非商業的にまたは公正に使用しており、その際に、消費者の誤認を惹き起こすことにより商業的利益を得る、または、当該商標もしくは役務商標(サービスマーク)の価値を毀損する意図を有していない

紛争中のドメイン名は、今現在、使用されておらず、商品およびサービスの提供の為に使用されている証拠、もしくは、当該ドメイン名が合法的・非営利に、または公正に使用されている証拠は存在しない。さらに、被申立人が当該ドメイン名により一般的に知られていることを示す証拠も存在しない。

従って、申立人は、被申立人が紛争中のドメイン名について権利または正当な利益を有していないことを証明した。

C. 悪意による登録および使用

能動的なドメイン名の使用の欠如は、自動的に悪意を証明するものではない。かつて裁定を下した紛争処理パネルは、被申立人の悪意があるか否かを判断する際に、登録時、および登録以降の状況の双方が考慮されなければならないとの見解を示した(Telstra Corporation Limited v. Nuclear Marshmallows, WIPO Case No. D2000-0003)。紛争中のドメイン名が能動的に使用されておらず、被申立人が答弁書を提出していない同様のケースにおいて紛争処理パネルが示した例として、被申立人に悪意があるか否かを検討する際に、下記の項目が考慮されうる(ALSTOM v. sv-alstom, WIPO Case No. D2008-0611)。

(1) 被申立人が合法的に紛争中のドメイン名を使用しているというような状況と捉えることが可能か。

(2) 被申立人が、申立人の商標権を知っていた、または、知りうることができたが、それにもかかわらず、その商標を含むドメイン名を登録したか。

(3) 被申立人が、紛争中のドメイン名を使用した合法的で営利的、または非営利的な事業を行っていることを示す証拠があるか。

本件の事実に基づいて、申立人の日本を含む世界規模の事業活動の範囲、複数の特許権申請、およびPATEK PHILIPPEの商標を使用してきた事業の長い歴史を考慮すると、紛争処理パネルは、このような状況が被申立人が紛争中のドメイン名を合法的に使用することができるようなものであると捉えることはできない。また、被申立人が、当該ドメイン名の登録時に、申立人の商標権を知らなかったと考えることも難しい。さらに、ドメイン名は使用されていないことから、被申立人が、紛争中のドメイン名を使用して合法的に営利的、または非営利的事業を行っているとする証拠は存在しない。これら全ての証拠は、紛争中のドメイン名が、悪意により登録され使用されていることを示すものである。

処理方針の第4条(a)項(iii)は立証された。

8. 裁定

以上の理由により、処理方針第4条(i)項および手続規則第15条に従い、紛争処理パネルは当該ドメイン名<patekphilippe.org>を申立人へ移転することを命じる。


Haig Oghigian
パネリスト

2008年10月14日

 

: https://internet-law.ru/intlaw/udrp/2008/d2008-1235.html

 

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